城崎温泉は1300 年の歴史を誇る外湯巡りで有名な温泉街である。それゆえ、駅が「玄関」、通りが「廊下」、外湯が「浴場」、土産物屋が「売店」を担い、旅館が「客室」と「食事処」の「泊食」を担うというように「まち全体を一軒の旅館」に例えられた。ところが、近年の旅館の人手不足の問題に加え、外国人観光客の増加に伴う宿泊形態の多様化により、旅館の外で食事をとる「泊食分離」のニーズが高まってきた。TOKIWA GARDEN は、このような背景から「まちの食事処」として、観光客が地元の食材を自ら焼いてBBQ を楽しむ、城崎では見られなかった新しいスタイルが企図された。計画地は大谿川沿いに面し、城崎温泉街のメインストリートとも言える北柳通りの入口に位置する。城崎の伝統的な景色を継承すると共に、新しいニーズ「泊食分離」を支える食事処として、これからの城崎を先導することが求められた。南側の北柳通りと通りを挟んで東側に外湯の一つ地蔵湯に面する角地を活かし、北柳通りと地蔵湯側の両面に「正面性」を与えることにした。そのために南面から東面に連続する軒庇と開口を設け、屋根を三分割にしている。この三分割の屋根の三角形に城崎の伝統工芸品である麦藁細工の幾何学文様を重ね、構造体を構成する。三角形グリッドのトラス梁を受ける柱を、角材三本を組み合わせた組み柱とすることにより、上空では柱が三方へ分岐し、独特の文様を創出する。この組み柱が分岐して作り出す六角形の文様は、城崎の町のあちらこちらで見かける玄武岩の六角形を連想させるものでもある。外観は、城崎温泉街の2階建てまたは3階建てを基本とする街並み規制に倣い、2階建てに見える高さとした。隣地から連続する庇とその下の開口部、ハイサイドウィンドウにより、「まちの廊下」である通りと一体に感じられる空間とした。